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乳がんについて

1.乳がんとは

乳がんにかかる日本人女性は年々増えており、1994年には胃がんを抜いて女性のがんの中で最も発症率が高いがんになりました。2006年の乳がん罹患数は約5万4千人ですが、現在はさらに増えているでしょう。死亡者数は2010年で約1万2千人です。

一生のうちで乳がんになる人の割合(生涯疾患率)は約5~6%と推定され、日本人女性の15~20人に一人が乳がんになるという計算になります。そしてこの割合は今後も増加していくと考えられます。

 

 

また、日本人の場合、乳がんの罹患率は30歳以降から急激に増加し、40歳代後半にピークを迎えます。他のがんに比べて罹患年齢が若く、社会的にも対策は重要課題です。


 

 

女性の乳房には母乳を作る乳腺があります。乳腺は乳汁を作る乳腺房を含む小葉と、乳汁が通る乳管からなります。


 

 

乳がんのほとんど(約90%)は乳管の上皮組織から発生する乳管がんです。

残りの約5%が乳腺房組織から発生する小葉がんで、他に粘液がんや髄様がんなどに分類されます。


乳がんが乳管や小葉の中にとどまっている間は、転移がありませんので予後は良好です。
乳がんが進行すると、多くは周りの基底膜を破って周囲のリンパ管や血管に入りこみます。

 

 

治療せずに放置すると、リンパ管や血管を通って周囲のリンパ節や骨、肺、肝臓などの臓器に転移し、生命を脅かすことになります。

 


乳がん発症の危険因子としては、早い初潮年齢、遅い初産年齢、少ない出産数、遅い閉経年齢、乳がんの家族暦、特にBRCA1・BRCA2というがん抑制遺伝子の変異、そして放射線の暴露、閉経後の肥満やアルコールなどがあります。

上記以外に、食事の欧米化なども乳がんの危険因子であると疑われています。

  • 乳がんと初潮年齢
    初潮年齢が13歳以下の女性と比較して、14~15歳で初潮があった女性は数%、16歳以上で初潮があった女性は30%ほど乳がんにかかりにくいという統計データがあります。
  • ・ 乳がんと初産年齢
    初産年齢が24歳以下の女性と比較して、初産が25~29歳の女性は約1.3倍、30~34歳の女性は約1.7倍、35歳以上の女性では約2.2倍、そして出産暦のない女性は約1.5倍、乳がんになりやすいという統計データがあります。
  • ・ 乳がんと出産数
    出産数が1度の女性と比較して、2度の出産を経験された女性は約5%、3度以上の出産を経験された女性は約30%ほど乳がんにかかりにくいという統計データがあります。
  • ・ 乳がんと閉経年齢
    閉経年齢が49歳以下の女性と比較して、50歳以上で閉経を迎えた女性は約2%乳がんになりやすいという統計データがあります。

上記のように乳がんの危険因子である出産や月経にかかわっているのが女性ホルモンのエストロゲンです。 エストロゲンは乳腺組織を刺激し、細胞の増殖を促します。細胞の増殖は遺伝子が傷つく原因となり、そして遺伝子が変異することでがん発症へと関係します。

現代の日本女性は、食生活の欧米化によって発育も体格もよくなりました。そのため初経が昔より早く、逆に閉経は遅くなっています。また、初産年齢の高齢化が進み、若年期に出産を経験しない女性が多くなってきています。子供を産まない、出産回数の少ないという女性も増加しています。これらがエストロゲンの作用期間を長くして乳がん発生のリスクを高めていると考えられています。

エストロゲンの主な産生源は卵巣(閉経前)および脂肪組織(閉経後)になります。

閉経後は卵巣に代わって、主に脂肪組織における男性ホルモンがエストロゲンに変換されます。そのため閉経後は肥満であることが乳がん発生のリスクを高めることになります。

また肥満である女性は、食生活が脂っこいものが好きである場合が多く、食生活が欧米女性に近いということも乳がん発生のリスクを高めているといえるでしょう。

アルコールについては一日に1杯程度の飲酒については乳がん発症との因果関係はないと考えられていますが、それ以上を常飲すると、飲む量が増えれば増えるほどリスクは高まると考えられています。

乳がんを引き起こす要因として遺伝も関連があります。
遺伝子の変異が明らかで子供に受け継がれるものを「遺伝性乳がん」と呼びます。
現在、BRCA1、BRCA2という乳がんの増殖を抑える役割をしている遺伝子の両方、あるいはいずれかに異常を持っている人は乳がんにかかりやすいことがわかっています。
ただ、実際に遺伝が関与しているのは乳がん患者のうち5%程度と考えられていますからそれほど多くはありません。
一般に、三親等以内の家族・親戚に乳がんの人が複数いる場合を「家族性乳がん」と呼びますが、家族は食生活などが似ていることが影響することもありますので、必ずしも遺伝したとはいえません。

 

2.検診と診断

乳がんの大きさが1cm位の大きさになると触った際に「しこり」として触れるようになってくるため、乳がんは自覚症状で気が付くことが多いがんです。

乳がん発見には普段からの心掛けが重要です。
日ごろから注意をしておくことで、乳がんが進行がんになる前に発見ができる可能性が高まります。定期的に自分の乳房を触って自分自身の正常な乳房を把握しておくことと、異常に気づいたら、自分で判断するのではなく、必ず検査を受けに行くようにしてください。

乳がんは「乳房のしこり」が認められたことで患者さんが受診して発見されるケースがほとんどですが、他にも下記のような自覚症状があります。

  • 乳房が異常に腫れてきた
  • 皮膚にくぼみや引きつれが見られる
  • 乳頭がくぼんでいる
  • 乳頭から血液の混じった分泌物がでてきた
  • わきの下に腫れを感じる
  • 首やわきの下にグリグリとしたシコリがある
  • 乳房が痛みや熱を伴い赤くなってきた

[乳がん早期発見の為に-乳房自己検診のススメ]

閉経前の女性は月経がきて7日目に乳がんの検査をします。閉経後の女性は毎月決まった日に自己検診を行います。

  • 入浴前に鏡に向かい右手を上げ後頭部におきます。右乳房の色、形及び乳頭から分泌物がないか、変わったところはないかを観察します。
  • 続いて左手に変え左乳房を同様に観察します。その後、両手を下ろし両乳房の相違を観察します。
  • 入浴時に身体を濡らし乳房を暖めます。そして左手を後頭部に置き右手の真ん中3本の指を合わせて乳頭を中心にゆっくりと内側から外側へ時計回りの方向へ動かし触ってみて固まりや小さなしこりがないかを確認します。
  • その後、反対の手に変え、もう一度同じように確かめる。最後に乳頭をつまみ分泌物があるかを確認します。
  • 入浴後、枕を背中に敷きまっすぐ横になった後左手を後頭部に置き、右手で左の乳房を触り輪を描きながら順を追って進めていきます。この時、わきの下と乳房の上も行います。終わったら反対側も同様に行います。

定期的に自分の乳房を触って自分自身の正常な乳房を把握しておくことと、異常に気づいたら、自分で癌か否かを判断するのではなく、必ず検査を受けに行くことが大切です。

  • 乳がんは進行すると骨転移や肺転移、肝臓転移、そして脳転移などの遠隔転移を起こします。
  • 乳がんが骨に転移した場合には肩や背中、腰の骨などに痛みを感じるようになってきます。
  • 乳がんが肺に転移した場合には息が苦しくなったり、咳き込んだりすることがあります。
  • 乳がんが肝臓に転移した場合には背中や腰、お腹が張って痛みを感じたり、食欲が落ちてきたり時には黄疸がでることもあります。腹水がたまり妊婦さんのようになることもあります。
  • 乳がんが脳に転移した場合には、目がかすんだり、ふらふらしたり、味覚が変わったり、ロレツが回らなくなってきたり、と様々な症状が出ることがあります。
[乳がんの検査-問診]

問診表には月経の状況や出産、家族暦などの質問があると思います。これらは乳がんになりやすい方なのかを判断する材料になります。しこりにいつ気がついたか、しこりに気づいてからの大きさの変化があるか・無いか、そして月経周期によりしこりの大きさが変わるか、痛みがあるかなども聞かれると思います。
あらかじめ上記の質問に答えられるようにしておくと良いでしょう。

[乳がんの検査-視診・触診]

医師が乳房を観察し、手で乳房やリンパ節の状態を検査することを視触診といいます。
乳房の変形の有無や乳頭から分泌物が出ていないか、首やわきの下のリンパ節が腫れていないか、しこりの大きさや硬さ、境目がはっきりしているかなどを調べます。

[乳がんの検査-マンモグラフィー]

マンモグラフィーとは乳腺のX線撮影のことです。より診断しやすい写真を撮るため乳房を圧迫して薄く平らにしながら撮影します。

 

マンモグラフィーでは腫瘤(しゅりゅう)や石灰化などが確認できます。腫瘤は何らかの細胞が増えている場合に見られます。腫瘤の境目がはっきりしていない場合には乳がんが疑われます。石灰化は乳房の一部に何らかの原因でカルシウムが沈着したものです。小さな石灰化がたくさん集まっている場合には乳がんが疑われます。
マンモグラフィでは、ごく小さな乳腺組織の変化やシコリを作る前の段階の石灰化でみつかる非浸潤がんの乳がんを見つけることができるなど、乳がんの早期発見に大いに役立ちます。

[乳がんの検査-超音波エコー検査]

超音波エコー検査は皮膚にゼリーを塗ってプローブ(探触子)をあてて内部を観察する検査です。

 

超音波エコー検査は乳房内にしこりがあるかどうかの診断に有効です。特に40歳未満の女性の場合、マンモグラフィーではしこりの有無がわかりにくい場合がありますが、超音波検査ではしこりを見つけやすい場合があります。
しかし、マンモグラフィーだけでしか発見できない乳がんもありますので精密検査では両方の検査を行うことが一般的です。
マンモグラフィーや超音波エコー検査でしこり(腫瘤)などの病変を認めた場合、組織・細胞検査を行います。
患者さんの乳房から採取した細胞や組織を顕微鏡で観察して、がん細胞を直接確認する検査方法です。

(Aplio300)

1.穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん:FNA)

穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん:FNA)はしこり(腫瘤)の確定診断を行うための検査で、細い注射針を皮膚の上から刺して、病巣部の細胞を吸引し、細胞が悪性か良性かを顕微鏡で調べる方法です。

直接細胞を採取する検査の中ではもっとも患者さんの負担が少なく、簡単な方法です。
十分な細胞を取ることが出来ればかなりの確度で診断がつきますが、十分に細胞を採取できなかった場合は診断が困難になるため、正しく判定できる割合は80%から90%程度になります。


 
 

2.針生検法(CNB)

針生検法(CNB)は細胞診よりもやや太めの針を刺し組織の一部を取り出して顕微鏡で調べる検査方法で、通常はマンモグラフィーや超音波検査と組み合わせて採取部分を確認しながら検査が行われます。

針生検法による組織診は正しく判定できる割合(正診率)が高く、侵襲が少なく、簡便であるため多くの施設で行われています。
細胞診と異なりがんによって変化した組織の構造や周囲の細胞との関係を観察することで、より正確で精密な判断が可能となります。また、乳がんの場合さらに詳しい性質を調べるための免疫組織染色という検査を行うことができます。
ただし採取する組織が小さいことなどにより正診率は100%とはなりません。

3.外科生検

外科生検では手術で乳房を切開してしこりの一部を摘出し顕微鏡で組織を観察して、最終的な診断をします。正診率はほぼ100%となります。  乳がんと診断された場合、胸部X線検査や胸部・腹部のCT検査、骨シンチグラフィー、血液検査などを必要に応じて行い、リンパ節、骨、肺、肝臓などへの転移の有無を確認します。

4.MRI検査  

MRI検査は磁気を利用して人体の断面画像を作り出す検査になります。CT検査とは異なり被爆のリスクはありません。しかし、強い磁場が発生しますのでペースメーカーや金属製の器具を体内にもっている患者さんにはMRI検査ができないことがあります。     MRI検査は乳がんの発見後に進行状況を調べたり、治療の効果を判断するのに行われる検査になります。特に、骨や脳への転移についてMRI検査は優れています。 

5.血液検査(腫瘍マーカー)      

腫瘍マーカーは正常な細胞からも多少はつくられますが、がん細胞から特に多くつくりだされるたんぱく質や酵素で、がんの有無や種類、進行状態を示す指標となります。腫瘍マーカーの検査は、一般に血液を採取するだけで容易に検査できるため広く普及しています。     乳がんでは腫瘍マーカーの数値を調べることで手術後の取り残しがないか、抗がん剤や放射線治療の効果があったか、再発の兆候がないかなどをおおよその目安として判断することができます。

腫瘍マーカーの検査は簡便な方法ですが、いくつかの不確実な面もあります。

  • 腫瘍マーカーは偽陽性を示すことがある
  • ある程度がんが進行しなければ陽性(高い値)を示さないことがある
  • 進行がんでも陽性にならないことがある
  • 複数の臓器でつくられるためがんがある臓器を特定できない

そのため、腫瘍マーカーが高い値を示した場合でも、がんの疑いがあるに過ぎず確定検査には画像検査などを平行して行う必要があります。腫瘍マーカーが高値というだけではがんの確定診断はできません。
乳がんの腫瘍マーカーとしては、CA15-3、CEA、BCA225、NCC-ST-439などが臨床の現場で用いられています。これら腫瘍マーカーは早期乳がんの診断には陽性率が低く、がん発見のための検査としてはあまり有用ではありませんが、化学療法(抗がん剤)などの治療効果の判定には有用なことが多くなります。
※各マーカーの基準値は使用するキットの違いで基準値が異なります

 

CA15-3

【基準値:27(U/ml)以下】
CA15-3は乳がんに最も特異性のある腫瘍マーカーの一つであり、偽陽性率は低い傾向にあります。
早期の乳がんでは陽性率はあまり高くありませんが、がんの進行とともに陽性率は高くなるため治療効果をみるには有用です。

 
CEA

【基準値:2.5(ng/ml)以下-RIA法/5.0(ng/ml)以下-EIA法】
CEAはもっとも一般的な腫瘍マーカーで、乳がん以外にも大腸がんや胃がんなど消化器のがんや肺がんなどで数値の上昇がみられます。そのため、CEAの値が高値を示しただけではがんの特定が難しいといえます。乳がんの陽性率は約50%です。

 
BCA225

【基準値:160(U/ml)以下】
BCA225は乳がん特異性の高い腫瘍マーカーで、乳がん術後のモニタリングや再発乳がんに対する治療効果判定に有用です。再発乳がんにおける感度はCA15-3と同等以上とされています。

6.乳がんのTNM分類

乳がんの進行度は、がんがどのくらいの大きさになっているか(T0-T4)、 周辺のリンパ節にどれほど転移しているか(N0-N3)、 遠隔臓器への転移はあるか(M0-M1)、の3つの要素で決められています。 これは、TNM分類といって、国際的な規約として使われています。

TNM分類をもとに、がんの進行度と広がりの程度を、 一度に表わすことが出来るように作られたのが、ステージ分類です。

    ■ 乳がんのステージ分類

乳がんは進行度によって治療法は異なります
乳がんの治療はがんの進行度によって異なってきます。そのため担当医師から進行度について正しい説明を受けることが大切です。

 

3.乳がんの手術療法

乳がんの治療法は病期(進行度)やがんの広がり、がんの性質、患者さんの体力、健康状態などから判断されます。

[ 乳がんの手術-乳房温存療法 ]

乳房温存療法は乳房温存術と温存乳房への手術後の放射線照射をセットに行う治療法で、しこりを含めた乳房の一部分とリンパ節郭清を行い、乳房のふくらみや乳首を残す手術(乳房温存術)を行った後に放射線治療(原則必須)を行います。

乳房温存療法は臨床病期が原則0、I、IIまでの乳がんや術前化学療法で縮小したがんに適応がある局所治療で、美容的にも美しく乳房を残すことが目的となります。乳房全摘出術と比し生命予後に差がないことが証明されています。


以下のいずれかにあたる場合には乳がんの乳房温存療法の適応にならず、乳房切除術が行われます。

  • 乳がんが広範囲にわたって広がっている場合(微細石灰化が認められる場合)
  • 2つ以上のしこりが同じ側の乳房の離れた場所にある場合
  • 患者さんが乳房温存療法を希望しない場合
  • 術後の放射線療法が行えない場合

乳房温存療法が行われた場合には、術後補助療法として放射線療法を行うことが標準的です。

乳房温存療法における手術の役割は、目に見える乳がんのしこりを切除することです。一方の放射線療法の役割は、手術だけでは取りきれない可能性のある、目に見えない乳がんの細胞に対して行うものになります。

[ 乳房温存手術の放射線療法 ]

乳房温存手術が行われた場合には、原則として放射線療法を行う必要があります。
乳房温存療法における手術の役割は、目に見える乳がんのしこりを切除することです。一方の放射線療法の役割は、手術だけでは取りきれない可能性のある、目に見えない乳がんの細胞に対して行うものになります。
そのため、乳房温存療法では手術と放射線療法を行うことが標準と考えられているのです。ただし、放射線療法を行っても再発を100%防ぐことが出来るわけではありません。

[ 乳がんの手術-乳房切除術 ]

ハルステッド法は乳房とわきの下のリンパ節だけでなく、乳腺の下にある大胸筋や小胸筋を切除します。かつてはこの手術方法が標準的手術方法として実施されてきましたが、現在ではほとんど行われることはなくなりました。
胸筋温存乳房切除術は乳房とリンパ節を切除して胸筋を残す手術方法です。通常「乳房切除」という時にはこの術式をさします。

当院では形成外科専門医とともに、乳房再建を行っております。

>>当院での乳房再建術について

[ 乳がんのリンパ節転移について ]

■腋窩リンパ節郭清
通常、乳がんの手術では乳房温存療法でも乳房切除術でもわきの下のリンパ節を切除する腋窩リンパ節郭清を行います。

腋窩リンパ節郭清は、リンパ節転移の有無を調べる目的と腋窩リンパ節への再発を防ぐ目的があります。
腋窩リンパ節転移の有無や転移がいくつあったかという情報は再発の可能性を予測し、術後に薬物療法が必要かどうかを検討するために非常に重要です。
わきの下のリンパ節への転移が4箇所以上あった場合には、乳房全摘手術後にホルモン療法や抗がん剤の治療に加えて放射線療法を行うことで再発の可能性が減らせることがわかっています。

 

腋窩リンパ節郭清を行うことで腕のむくみなどの後遺症がでることがあるため、現在ではがん細胞が乳管内にとどまっている非浸潤がんや術前画像診断にて明らかな腋窩リンパ節腫大を認めない場合はセンチネルリンパ節生検で転移の有無を確認することで対処することが標準術式となりました。
センチネルリンパ節生検は、腋窩リンパ節の中でも最初にがん細胞がたどり着くリンパ節にがん細胞があるかを調べる検査です。
センチネルリンパ節にがん細胞が無ければ、その先のリンパ節にも転移がないと判断できますので、腋窩リンパ節郭清を省略します。

 

■放射線療法

放射線療法は放射性物質から出るγ線や大型の加速器により人工的に作り出したX線などをがん細胞に照射することによって、がん細胞に損傷を与え、がん細胞を死滅させる治療法です。基本的に放射線が照射された範囲にだけ治療効果が及びます。

■放射線治療の照射線量について

照射線量は施設によって違いがありますが、1回の線量が1.8~2.0Gy(グレイ)で、合計45~50Gy程度の照射量が平均的です。週に5日行った場合で5、6週間の期間となります。
比較的短時間で外来でも治療ができたり、副作用も比較的少ないものですが副作用がないわけではありません。

■放射線療法の副作用について

正常な細胞に放射線が照射されると正常な細胞がダメージを受け副作用が出ることがあります。副作用には治療中又は治療直後にでるものと、半年~数年後にでてくるものとがあります。
直後から数ヶ月以内に現れる副作用としては、皮膚が日焼けしたときのように赤くなることがあります。皮膚が弱くなっているため刺激に弱くなります。他に皮膚がカサカサしたり、黒ずんだりすることもあります。また倦怠感を感じることもあります。
放射線治療による副作用が現れるのは照射した部分に限られますので、乳がんの場合には、放射線療法単独では頭髪が抜けたり、吐き気やめまいが起こることはほとんどありません。
放射線治療の副作用のうち治療後数ヶ月以上経過してから現れるものの方がより注意が必要で、同じところに二度照射すると副作用の頻度が増し、放射線治療の効果よりも副作用の方が強く現れるため、一部の例外を除いて一度放射線照射を行ったところには再照射しないのが原則です。

 

4.乳がんの薬物療法

■乳がんの予後乳がんのステージ別の5年生存率

1期  98.2%
2期  91.5%
3期  67.8%
4期  31.5%

上の表は、乳がんのステージ別5年生存率を表したものです。
5年生存率とは、5年間再発しないということではなく、衰弱しても生存していればカウントされる数値で、(状態はともかく)治療開始から5年後に生存している人の割合です。

乳がんは他のがんと比較すると予後の良いがんで、ステージ2期までの5年生存率は90%以上ですが、病期(ステージ)が進行するとともに5年生存率は徐々に下がります。

乳がんの死亡率を下げるために術後(術前)薬物療法を行います。
薬物療法は、化学療法(抗がん剤治療)内分泌療法(ホルモン療法)分子標的治療があります。

化学療法(抗がん剤治療)
CMF
C(シクロホスファミド=エンドキサン)とM(メソトレキセート)、F(フルオロウラシル=5FU)の3剤を組み合わせた治療法です。

CAF
C(シクロホスファミド)とA(アドリアシン)、F(フルオロウラシル=5FU)の3剤を組み合わせた治療法です。

AC
A(アドリアシン)とC(シクロホスファミド)の2剤を組み合わせた治療法です。ECE(エピルビシン)とC(シクロホスファミド)の2剤を組み合わせた治療法です。

FEC
F(フルオロウラシル=5FU)とE(エピルビシン)、C(シクロホスファミド)の3剤を組み合わせた治療法です。

タキサン系薬剤
ドセタキセル=タキソテール、パクリタキセル=タキソールなどを使った治療法です。

■化学療法(抗がん剤)の副作用

(骨髄毒性-白血球減少(好中球減少)、赤血球減少、血小板減少)
乳がんの抗がん剤治療により血液をつくる細胞がダメージを受け、白血球減少や赤血球減少、血小板減少などの副作用を高頻度で生じます。
乳がんに対する化学療法では、患者さんが抗がん剤の副作用により死亡することが稀にですがあります。治療関連死で最も多いのは白血球や好中球減少による重篤な肺炎や敗血症などの感染によるものですから、これらの血液検査の数値が低下した場合には注意が必要です。

白血球減少(好中球減少)が起きると乳炎などの感染症を起こしやすくなります。また発熱が続くこともあります。白血球や好中球の減少に対しては、G-CFS(顆粒球コロニー刺激因子)などを使用することがあります。

赤血球が減少することで貧血になったり、血小板減少により出血しやすくなったり、あざができやすくなったり、注射の跡が消えにくくなるなどの副作用が現れることがあります。

これらの副作用を骨髄毒性といいます。骨髄毒性は目に見える副作用ではないため一般の方は軽視しがちですが、実は命にかかわることが少なくない副作用ですから抗がん剤の投与中は注意深く骨髄毒性が許容範囲内であるかをチェックする必要があります。

(吐き気・嘔吐・下痢)
乳がん治療で抗がん剤が投与されると多くの方で吐き気や嘔吐をおこします。下痢をする方もいらっしゃいます。
使用する抗がん剤の種類により吐き気や嘔吐が起きやすい抗がん剤もあれば、あまり激しい副作用を伴わないものもあります。場合によっては極度の脱水症状により衰弱してしまう可能性もあります。

(脱毛)
乳がん治療では脱毛を起こしやすい抗がん剤(アドリアマイシンやパクリタキセル、ドセタキセルなど)が使われることが少なくありません。脱毛は治療直後ではなく治療開始から2、3週間経過して始まることが多いようです。

(その他の副作用)
乳がん治療で用いられる抗がん剤の副作用として、動悸や息切れ、体のむくみ、筋肉や関節の痛みなどが現れることがあります。

手足症候群といって手のひらや足の裏に刺すような痛みがあったり、手足の感覚がまひしたり、皮膚の乾燥やかゆみ、変色などの症状が現れることがあります。
口内炎や倦怠感(だるさ)、皮膚や爪の変色、味覚障害、肝機能障害なども副作用で現れます。

内分泌療法(ホルモン療法)

乳がん患者さんの60%から70%はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンによってがん細胞が増殖するホルモン感受性の乳がんです。
乳がんのホルモン療法はからだの中で作られるエストロゲンを減らしたり、エストロゲン受容体をふさいでエストロゲンとの結合を邪魔することで、がん細胞の増殖を抑えるものです。
乳がんのがん組織を調べ、ホルモン感受性があると診断された場合にホルモン療法の効果が期待できます。副作用が比較的少なく、長期間使えるのが特徴です。
乳がんの治療に用いるホルモン剤にはいくつかの種類があり、閉経前と閉経後とで治療に使う薬剤も異なることがあります。
閉経前の女性は、主に卵巣でエストロゲンが作られます。一方閉経後には副腎で作られるアンドロゲン(男性ホルモン)が脂肪などにある酵素の働きでエストロゲンに変換されます。

(閉経前乳がんのホルモン治療)
閉経前の女性の卵巣機能をストップさせ一時的に閉経後の状態にし、エストロゲンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト(ゾラデックス、リュープリンなど)と呼ばれる薬です。乳がん治療でこのホルモン剤を用いると更年期障害に似た「ほてり、発汗、冷え」などの症状が現れます。

(閉経後乳がんのホルモン治療)
閉経後の女性に対しては、アロマターゼ阻害剤(閉経後、脂肪でエストロゲンをつくる酵素をブロックするアフェマ、アリミデックス、アロマシン、フェマーラなど)と呼ばれるアロマターゼ活性を抑えてエストロゲンの産生をとめるタイプのホルモン剤もあります。
エストロゲンが受容体に結合することを防ぎ乳がん細胞の増殖を抑える働きをする抗エストロゲン剤(エストロゲンが癌に働くのをブロックする=タモキシフェン、トレミフェンなど)を使うこともあります。乳がん治療でこのホルモン剤を長期間使用することにより子宮体がんのリスクが若干高くなるという報告もあるため子宮体がんの定期検査をする必要があります。

(ホルモン療法の副作用)
気分の落ち込みやホットフラッシュ-更年期障害
気分の落ち込みやホットフラッシュ(のぼせやほてり)などの更年期障害は女性ホルモンであるエストロゲンが少なくなることで起こります。エストロゲン減少により体温調整がうまくできなくなり皮膚の血流が増えて顔面の紅潮や発汗などの症状が現れたり、不安や動悸などの症状を伴うこともあります。

(その他の副作用)

  • タモキシフェンなどでは血液が固まりやすくなるため血栓ができ合併症をおこすことがあります。
  • エストロゲンを減少させるLH-RHアゴニストやアロマターゼ阻害剤を使用すると、骨がもろくなり骨折しやすくなります。骨粗鬆症のある方はその治療も併用して行う必要があります。
  • アロマターゼ阻害剤では関節のこわばりや関節痛などが高頻度で見られます。
  • 性器から出血や膣分泌物の増加、膣の乾燥や炎症などの症状が現れることもあります。
  • タモキシフェンにより子宮体がんになるリスクが2~3倍増えると言われています。
分子標的治療

(ハーセプチン)
「HER2/neu」という特定の遺伝子が関与する乳がんに対して、トラスツズマブ=ハーセプチンという薬を用いて治療を行います。
HER2検査をすることで、ハーセプチンやタイケルブの効果が期待できる「がん」とそうでない「がん」がわかるため、切除した乳がんのHER2検査は不可欠な検査であるといえます。

 

5.乳がんが転移再発した場合

乳がんは進行すると周囲のリンパ節に転移し、さらに血流にのって肺や肝臓、骨、脳などに転移します。乳がんは初回治療後に再発することがあります。また、乳がんの診断を受けた時点ですでに肺転移や肝臓転移、骨転移、脳転移など遠隔転移してしまっていることもあります。
再発する場所が手術で切除した側の胸壁や皮膚、乳房近くのリンパ節などの場合を局所再発、肺や肝臓、骨や脳など乳房から離れた臓器に転移した場合を遠隔転移といいます。

■局所再発した乳がんの治療
乳房温存術後に乳房内に局所再発した場合には、最初の治療の後に残ったがん細胞が増殖したものと考えられるため、再度その部分を切除することがあります。

また、胸壁やリンパ節に再発した場合も手術を行うことがあります。
手術をした後も、既に全身にがん細胞が拡がっている可能性を考え、一部を除いて抗がん剤や放射線治療を追加します。

■遠隔転移した乳がんの治療
乳房から離れた肺や肝臓、骨や脳にがんが転移するのは、血液やリンパ液の流れにがん細胞が乗ってそれらの臓器に運ばれ、増殖したものになります。

遠隔転移巣を切除しても、すぐに別の部位でがんが増殖してしまうため手術を受けるメリットが少ないためごく一部を除いて局所療法である手術は適応となりません。

■遠隔転移で手術を行うケース
骨転移によって骨折が起こった場合や脳に一ヶ所だけしこりができた場合には手術を行うことがあります。
また乳がんの転移であるのか識別が困難な場合に手術をすることがあります。ただし、血液検査や画像検査を行うことで多くの場合、乳がんの転移かどうかある程度判断がつきますので、必ずしも手術をするわけではありません。
肺転移(転移性肺腫瘍)や肝転移(転移性肝腫瘍)、骨転移(転移性骨腫瘍)、脳転移(転移性脳腫瘍)など遠隔転移を有するケースでは主に化学療法(抗がん剤)やホルモン療法など全身治療が中心となります。他に症状緩和を目的として放射線治療が行われることもあります。
遠隔転移した場合でも、最初にできた乳がんと同じ性質を持っているため、乳がん治療に使用する抗がん剤などを用いて治療を行うことになります。
以下に、転移再発乳がんに適応を持つ抗がん剤を挙げます。

イリノテカン
イリノテカン(カンプト、トポテシン)は手術不能または再発乳がんの適応を持つ抗がん剤です。

ゼローダ
ゼローダ(カペシタビン)は手術不能または再発乳がんの適応を持つ抗がん剤です。

ハラヴェン(エリブリンメシル酸塩 )
他剤が無効だった手術不能又は再発乳がんに使います。

タイケルブ(ラパチニブ)
ハーセプチンと同じくHER2が過剰に発現している乳がんに使用します。手術不能又は再発乳がんに適応を持つ分子標的薬です。

化学療法(抗がん剤)の副作用
「乳がん治療における化学療法(抗がん剤)の効果判定」
「化学療法(抗がん剤治療)を続けるか止めるか」
抗がん剤の治療を行う際の目的は「がんの縮小、そして延命」、「がんの進行を止める」「がんによる痛みの軽減などQOLを改善する」などになります。
治療効果が十分で、副作用が軽微であれば治療を続けるメリットは大きいと思います。
抗がん剤治療を行う際には治療効果が得られているのか定期的に確認しながら治療を行って行きます。
また抗がん剤治療は体への負担が大きいため以下のPS(全身状態)を参考に治療を行う条件を満たしていることが望ましいとされています。

以下に一般状態判定基準、効果判定基準を示しますので参考にしてください。

■一般状態判定基準

  • 0 無症状で日常生活に支障のないもの
  • 1 症状はあるが、日常生活に支障のないもの
  • 2 就床を必要とするが、日中50%以上の日常生活が可能と考えられるもの
  • 3 日常生活は可能であるが、日中50%以上就床を必要とするもの
  • 4 1日中ほとんど離床不能なもの

※PS0~3が化学療法治療対象となるが、PS3薬剤感受性の良い腫瘍やPS2に近い3の症例の方が安全である。

■治療の効果判定

CR
(著効)
腫瘍が全て消失した状態が4週間以上継続している。完全寛解ともいう。
PR
(有効)
腫瘍が50%以上(半分以上)縮小している状態が4週間以上継続している。
NR
(不変)
効果がPRには満たない、あるいは、増悪が以下のPDに当てはまらない。すなわち、腫瘍の縮小が半分にまで至らないか、25%以内の増大におさまっている。
PD
(進行)
腫瘍の25%以上の明らかな増大。あるいは他の病変の出現・増大 

※一部の腫瘍が縮小した場合でも、他の部分が新たに出現あるいは増大した場合には進行と判断します。

 

乳がんの骨転移(転移性骨腫瘍)に対する治療
乳がんの骨転移は頚椎や胸椎、腰椎、骨盤骨、肋骨、胸骨、手足の骨(四肢骨)、頭蓋骨などに多く発生します。とくに頚椎や胸椎、腰椎に転移した場合は脊髄ががんによって圧迫されるため強い痛みを感じたり、神経が麻痺することがあります。

また、普通ならば骨折することのないような弱い衝撃でも骨折してしまうことがあります。
ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸やパミドロネート)をホルモン剤や抗がん剤と併用することによって疼痛を抑えたり、骨折の頻度を減らすことができます。

骨の転移(転移性骨腫瘍)部位に対して放射線をかけることで痛みが緩和されたり、もろくなった骨を安定化させ骨折が予防できたり、神経症状が改善されたりします。

 

乳がんの脳転移(転移性脳腫瘍)に対する治療
乳がんの脳転移に対する放射線治療では、頭痛や吐き気、嘔吐、ふらつき、歩行困難、視力の異常などの症状緩和が目的となります。

転移は脳の中のどこにでも起こる可能性があり、大きさや数も様々ですから、治療法の選択肢もいくつかあります。

全脳照射は脳全体に放射線をかける治療法で脳のいろいろな所に転移がある場合などに行います。手術で腫瘍を摘出した後に放射線を照射する方法もあります。また、リニアック装置やガンマナイフによって多方向から放射線を集中してかける治療法も行われています。 

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