泌尿器科
堺市にあるベルランド総合病院 泌尿器科は、昭和61年より大阪市立大学医学部泌尿器科と連携をとりながら診療を行っており、現在、常勤医5名と非常勤医2名が勤務しています。常勤医5名のうち日本泌尿器科学会認定専門医が3名で3名とも指導医です。
外来診療は月曜日から土曜日までの午前中に2診制で行っています。
手術日は月・水・金で年間572件(2020年、前立腺生検とESWLは含めず)の手術・検査を行いました。
悪性疾患に対しては、診療ガイドラインに基づきながらも個々の患者さんにとって最適な治療を提供できるように努力しています。以前より手術の低侵襲化を目指して、多くの手術を腹腔鏡下に行ってきましたが、手術支援ロボット導入に伴い、2019年8月から前立腺癌に対して、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全術を行っています。また2021年1月から腎癌に対してもロボット支援腎部分切除を行っています。今後は膀胱全摘除術もロボット支援手術を行ってまいります。
薬物療法では腎癌、前立腺癌、膀胱癌いずれも精通しており、先進的な治療を行っています。
良性疾患に対しては、やみくもに手術のみを勧めるのではなく、患者さんのQOL(quality of life:生活の質)向上をまず第一に考えて診療しています。
進行した膀胱癌や神経因性膀胱のため尿路変更を行っている患者さんは、皮膚排泄ケア認定看護師も診察に加わりケアしています。
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診療
悪性疾患
1) 前立腺癌
● 前立腺癌とは?
2017年の国立がん研究センターのがん統計によると、男性の罹患する癌では前立腺癌が1位であり約9万人でした。人口10万人あたりでは約148人で生涯罹患リスクは約10%、つまり男性が生きている間に10人に1人は前立腺癌になる可能性があります。
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なぜ生存率が高いか?それはホルモン治療(男性ホルモンを低下させる治療)が、非常によく効くからです。100%ではありませんが、ほとんどの人が皮下注射(1か月製剤、3か月製剤や6か月月製剤)と飲み薬により、少なくとも数年は癌の進行を抑えることができます。ですから前立腺癌と診断されても、すぐに命がなくなるわけではないのです。ただし、中には数か月でホルモン治療の効果がなくなる方もいますし、一方で数年間効果が持続する方もいます。
そして、ホルモン治療の効果がなくなれば抗がん剤を投与したりする必要が生じます。また、受診時、すでに転移がある場合は、完治は望めなくなります。
● 検査と診断について
前立腺癌にはPSAという特有の腫瘍マーカーがあります。人間ドックでPSA異常値を指摘されて泌尿器科を受診される方や、最近では、自治体のがん検診でもPSAの採血を採用している市町村も多くなってきました。
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(表1)
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(表2)
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● 病期(ステージ)について
MRやCT、骨シンチなどで癌がどこまで広がり転移をしているか調べます。
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T分類(癌の進展度) | |
stage T1 | 癌が前立腺の中にあり触診や画像で認めず、生検などで癌が判明。 |
stage T2 | 癌が前立腺の中にあり触診や画像でも癌を認めるが転移はない。 |
stage T3 | 癌が被膜を越えて浸潤している。 |
stage T4 | 癌が膀胱や他の臓器に浸潤している。 |
N分類(リンパ節転移) | |
N0 | 所属リンパ節転移がない。 |
N1 | 所属リンパ節転移がある。 |
M分類 | |
M0 | 転移がない。 |
M1 | 転移がある。 |
● 治療について
治療は、手術治療、放射線治療、ホルモン治療、抗癌剤治療に分かれます。 完治する治療方法として、手術治療と放射線治療があげられます
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手術治療
期待余命10年以上ある方にお勧めしています。具体的には、平成30年の厚生労働省発表の平均余命表によると、75歳の方で12.29年、80歳の方で9.06年となっていますから、身体的にお元気な方で他に重い病気がない方では70歳代後半までが対象です。それ以上の年齢の方や他に重い病気をある方は、個人差はありますが、手術でなくても放射線治療やホルモン治療が比較的長期間効果が持続するので、その方にとってベストな治療を選択いたします。
当院では2019年8月から手術方法としてロボット支援手術(ダ・ビンチ)を行っています。これまでは、開腹で100人以上の患者さんを手術してきましたが、最新鋭のロボット「da Vinci Xi」を当院にも導入することによって、骨盤の奥に位置する前立腺を拡大された視野で正確に摘出することができ、再発のリスクを減らすことが可能になりました。
放射線治療
当院では外照射のみを行っており、一般的にはホルモン治療を6か月から9か月先行したのち、約2か月かけて通院または入院にて週5日、少しずつ照射して癌を殺していきます。その後、高い再発リスクのある方を除いて無治療で、PSAを外来で採血して経過観察します。【イメージ】
ホルモン治療→ 放射線治療→ 外来でPSAを採血して経過観察
(6-9か月) (2か月) (高リスク:約2年間ホルモン治療)
なお、放射線治療を行うと、合併症として直腸出血が報告されています。輸血を伴うこと(1-6%)もあり、大腸カメラなどで直腸を刺激すると出血しやすくなります。
当院では放射線治療前に大腸カメラをしていただき、事前に大腸癌がないかどうかを検査します。そうすることによって、放射線治療後の下血に対して大腸癌がないことが分かっていれば、大腸カメラをしないで済み無用な直腸出血を回避できるからです。
ホルモン治療
リンパ節転移や骨転移など診断時に転移があった方や80歳以上の高齢者に対して行う治療です。皮下注射と内服で治療を行っていきますが、効果が数年でなくなることが多く(長い方で10年近く効果が持続する方います)、その場合は内服の薬を変更したり、抗がん剤の点滴治療をしたりします。 抗癌剤治療は、日本ではドセタキセルとカバジタキセルが承認されています。 ホルモン治療の効果がなくなった時に使用します。特に予想外に早くホルモン治療の効果がなくなった場合(6-12か月)、早期に抗癌剤治療を始めることが推奨されています。
2) 腎癌、腎盂尿管癌
基本的には、腹腔鏡手術にて摘出手術を行い、腎部分切除が可能なケースは開腹にて行っています。
3) 膀胱癌
浸潤性膀胱癌に対しては、膀胱全摘および回腸導管全摘術を行っています。症例を選んで回腸による自排尿型代用膀胱造設術(ネオブラダ―)を行います。非浸潤性膀胱癌に対しては、再発防止のために、できうる限り内視鏡で深く広範囲に切除しています。術後抗がん剤やBCGの膀胱内注入療法を行って再発率の低下に努めています。
4) 精巣腫瘍
精巣腫瘍が疑われたなら、できるだけ速やかに精巣を摘出し、リンパ節の腫大が認められれば標準的な放射線治療や抗がん剤治療を行っています。
良性疾患
1) 尿路結石
①疫学
2005年に実施された全国疫学調査では、我が国の上部尿路結石(腎結石及び尿管結石)に1年の間でかかる割合は、人口10万人対し134人(男性:192人、女性:79人)であり、1965年の調査時と比べて約3倍増加しており、尿路結石は増加傾向にあると言えます。また、男性では15.1%、女性で6.8%(男性では7人に1人が、女性では15人に1人)が一生に一度は尿路結石にかかると言われています。
②診断
尿路結石の多くは疼痛(腰背部から側腹部)と血尿を来たします。しかし、疼痛・血尿どちらの症状も他の疾患でも起こることがあること、またどちらの症状がなくても尿路結石症を否定するものではないため、画像検査による診断が必要です。レントゲン検査や超音波検査、CT検査などを行います。特にCT検査では、結石の硬さも推定可能であり治療法選択の一助となります。
③治療
5mm以下の小さな結石であれば自然に出てしまう人もいますが、出ない場合は手術治療が必要になる場合があります。結石の大きさと場所、硬さによって治療の方法を変える必要があります。また、人によって簡単に治療できる場合もあれば難渋する場合もあります。当院では、下記の3つの方法を患者さんの状態と環境に応じて治療選択をしています。
ア) 体外衝撃波結石破砕術:ESWL
2011年4月より第三世代のESWL装置である Dornier社製DeltaⅡを導入しました。
基本的に腎結石に対しては1泊2日の入院で治療を行っていますが、尿管結石に対して日帰り手術を行っています。
麻酔はせず術前に坐薬を入れ、術中疼痛が強い場合は痛み止めを追加します。 治療効果判定をESWL後より3カ月以内にレントゲンまたは超音波検査を行い、完全排石または残石4mm以下となった場合を有効としたところ、当院における腎結石に対する有効率は約70%、尿管結石に対する有効率は約85%でした。
イ)経尿道的レーザー破砕術:TUL
2009年10月よりボストン社製ホルニウム・ヤグレーザーを購入し結石破砕治療を行ってきました。特に、軟性尿管鏡を併用するようになった2011年2月から症例数が増加し、2016年からはコンスタントに100件以上の手術件数を行っています。入院期間は手術前日入院の場合、3泊4日です。麻酔は何らかの原因で全身麻酔が必要な場合を除いては、基本的に腰椎麻酔で行います。15mm以上の大きい腎結石に対しても(複数回の治療を要することもありますが)積極的にTULで治療を行っております。当院で上部尿路結石に対しTULを 施行した208例の治療成績は、完全排石率が72.1%。残石4mm以下を有効とすると有効率は80.8%でした。
ウ)経皮的腎砕石術:PNL
おもに20mm以上の大きな腎結石が対象になります。腰の皮膚から腎臓に筒を挿入し、その筒を介して内視鏡を腎臓の中に入れて破砕する方法です。当院ではPNLで治療を行う場合、約6㎜の筒を挿入し細径腎盂鏡を用いて砕石します。細い筒を使用することにより体に負担をかけない治療を心がけています。
2) 前立腺肥大症
ゴールドスタンダードである内視鏡的に前立腺を切除しています。入院期間は手術前日入院の場合8泊9日が基本です。
3)感染症
急性腎盂腎炎の場合、39-40℃近く夕方から夜にかけて発熱することがあり、入院して抗生物質の点滴が必要になることがあります。特に、結石などによって尿の流れが悪くなり細菌尿が腎臓から出にくくなる(閉塞性腎盂腎炎)と、最悪の場合死亡する可能性があるため出来るだけ早期に尿管カテーテルを挿入しています。その他、難治性の急性前立腺炎や精巣上体炎(副睾丸炎)も入院して治療を行っています。